不動産屋に行ったら担当者が嫁大好き芸人だった

 

実家を出ていくと言い続けて早3年、やっと契約することになった。

場所は実家の最寄り駅からは40分と近くもなく遠すぎるわけでもない、都心と地元の中間地点に引っ越すことにした。私はビビリ芸人なので、内見も行きたいしガスはなんの種類?壁は薄いの?近くにスーパーは?(調べろ)住人の民度は?(地元の民度のほうが断然低い)となにかと心配になってしまっていたのだが、担当者がだいぶスカした野郎だった。電話の時点で、

 

担当「この前話してた物件なんですけど〜」

私「はい」

担当「初期費用30万って言ったじゃないすか?」

私「はい」

担当「あれ、12万になりました!」

私「、、安すぎないですか?」

担当「いや俺も笑っちゃいましたね」

私「私騙されてないですよね?」

担当「騙されてないですよ(笑)」

私「ならいいんですけど、、じゃあ内見」

担当「内見必要ないですよ!俺内見しないんで」

 

という非常に無礼な野郎なのだ。お前が内見しないのは関係ないのだ。住むのは私なのだから。と思ったがあまりの初期費用の安さに連絡を取らざるを得ない状況だった。

 

無礼な野郎(略、無礼)はどんどん電話をかけてくる。平日の昼間だろうが夜ご飯時だろうが無礼には関係ない。しかも無礼は最初の挨拶が何を言っているのか分からない。「○!※□◇#△!」というレベルなので最初は誰だか分からず着信拒否をするところだったが、何度も電話をかけてくるので何を言っているのか分からなくても、そいつからの電話だと察することができるようになった。

 

察することができるほど入居の話が進んだころ、無礼が契約書を書きに店に来いというの今日行ってきた。

なんだか気分的に電車で行きたくなかったので車で向かっていたのだが、家から店までは1時間くらい。あと少しのところで渋滞にハマってしまったのだが、到着15分前だったので大丈夫か。そう安心していたのだが、無礼から電話で若干急かされた。今どこらへんすか?じゃねーわ、すっこんでろ!

 

到着すると店内に1人、無礼だけがいた。

無礼はマスクをしていたが、目元が誰かに似ていた。少し考えたが、パンサーの尾形だと判明した。なのでここからは尾形として説明します。

 

尾形は遠くからすみません、とまるで田舎から出てきたかのようなディスりを披露し、大量の書類と契約書を広げた。

 

尾形「これが契約書と読んでもらいたい書類ですね。1個確認したいんすけど、犬とか猫飼う予定ないすよね?」

私「ないですよー」

尾形「よかった!ここダメなんで!俺実家に犬飼ってたんでひとり暮らし始めるとき寂しかったすねー」

そう、尾形は自分の話をするのが大好きなのである。

私「そうなんですね(笑)でもわかります」

尾形「でも今は嫁と住んでて、犬飼ってます。まじで可愛いです。写真見てもらえますか?」

半ば強制的に見せてもらったが普通に可愛いシェットランドシープドッグだった。

 

そして契約書にサインし続けている間、手持ち無沙汰の尾形の自分話はここからヒートアップしていくこととなる。

尾形「この物件、名前めっちゃ可愛いですよね、キラキラしてるっていうか。この間内見に行った時、右隣のアパート名がライトハウスで(笑)そのまんまじゃんっていう(笑)ライトって(笑)普通に笑いましたね(笑)」

尾形「昨日内見したお客さんが俺んちの近所で。普通に俺、夜ご飯食べるんで失礼しますって言いましたからね、え?とか言われましたけど、いやほんとに。全力で夜ご飯なんで!つって(笑)嫁がこう(鬼のポーズ)なんで、つって。夜ご飯って言っても買い出しにいくところから、みたいな(爆笑)」

 

途中まで居酒屋のキャッチとプライベートで話している気分になっていたが、こんな図々しいやつでも嫁の尻に敷かれてるんだと思うと、少し印象が変わった。

 

だいぶ尻に敷かれてるじゃないですか(笑)と私が言うと、尾形はコピー機の前で振り返りながらこう言った。

 

「でも俺、嫁大好きなんで!」

 

そのまま尾形は、嫁のために働いてるし嫁が大好きだから夜ご飯の食材も全然買いに行ける。むしろ嬉しい。と初対面の私にスラスラと続けたんですが、え、まじでいいやつすぎないですか?

単純でしょうか。いいえ、これこそが男のあるべき姿なのです。

 

 

この世には浮気や不倫を日常的に行うろくでもない人間が山ほどいます。

ニートラップに引っかかることも中にはあるでしょう。でももし尾形のように、彼女や嫁、彼氏や旦那の話を普通にし、大好きだ!と言っていたら、そもそも浮気や不倫に発展するでしょうか?

うん、しないね。(強制)

だから浮気や不倫に発展するのは、相手が近寄ってきたという理由だけではなく、近寄らせるような雰囲気や発言をする本人にある、ということが尾形の振る舞いで明確となったのです。

 

それからの尾形は、それはそれは煌々と輝いており、私の中で尾形は、全男性の鑑として刻まれたのです。

ありがとう、尾形。私はとんでもない勘違いをしていたよ。

 

「じゃ、これで契約書完了なんで。昨日また内見したいって言ってましたけどまじでしなくていいっすよ、また連絡しまーす。」

 

うん、もう気にならない。尾形を信じる。決めたよ。

そう思いながら、店を立ち去ったのであった。